東京都稲城市
稲城長沼駅の高架下にあるテイクアウト専門店
「Bambi Cafe(バンビカフェ)」

オーナーがタコライスに込めているのは、「たくさんの人においしいと感動してほしい」「安くても高品質でおいしいと言ってもらいたい」という想いだ。
Bambi Cafeの開業から取材時点で約2年3か月。
この店が生まれた背景には、故郷・石巻で起きた東日本大震災と、震災後も周りの人に手を差し伸べた母親の存在がある。
自分も被災している中、人助けをしていた母親の行動に心を動かされ、「自分も人に喜んでもらいたい」と思ったことが自分の店を持つきっかけの一つになった。
好きな言葉は「与えるものは得るもの」。
Bambi Cafeが生まれるまでの道のりをたどると、この言葉につながる出来事がいくつも見えてきた。
Bambi Cafe オーナー Bambi Cafe Owner
30代|宮城県石巻市出身|Bambi Cafeオーナー
大学進学を機に上京。金融機関と飲食店に計10年程勤務し、現在はテイクアウト専門店「Bambi Cafe」を経営している。
「人生は、針時計ではなく砂時計。」
ROOTS
剣道と、7人家族の暮らし
オーナーは宮城県石巻市で育った。
父、母、兄二人、祖父母との7人家族で、父親は公務員として働き、母親は床屋を営んでいた。
「普段は優しいけど、怒るとめちゃくちゃ怖い父と明るい母です。こそっとお菓子をくれる祖父と祖母がいました。自然が多いところでのびのびと愛情を受けて育ったと思います」
父親は剣道の先生で、二人の兄も剣道をしていた。
そのためオーナーも幼稚園の頃から自然と竹刀を握り、高校まで稽古を続けた。本人によれば、さまざまな大会で優勝や入賞を経験し、団体戦では先鋒として東北大会にも出場したという。
——東北大会の先鋒戦は、どうでしたか?
「ボコボコにされました!笑」
この答えからも、オーナーの気さくな人柄が伝わってくる。剣道から学んだことを尋ねると、忍耐力や精神力、礼儀、協調性に加え、自分に勝つ力である「克己心」を挙げた。勝つ喜びと負ける悔しさを知ることができた反面、日々の稽古はとにかく厳しかったそうだ。
現在の座右の銘は「コツコツが勝つコツ」。
幼稚園から高校まで剣道を続けた時間は、この言葉にも重なっている。
FIRE
小学生の頃、自宅が全焼した
小学生の頃には、自宅が火事で全焼する出来事もあった。原因はボイラーからの出火で、その前日には作業員による点検が行われていたという。
火事のあと、家族は数日間母親の実家で過ごした。
それから元の家の近くにある借家へ移り、同じ土地に新しい家が建つまでの間、そこで家族と暮らした。
TOKYO
上京、留年、そして大学中退
高校を卒業すると、大学進学を機に東京へ出た。
上京したときの気持ちを尋ねると、
「わくわくでした!」
と、当時を振り返った。

東京では居酒屋でアルバイトを始めたが、次第に飲み歩くことが増え、大学へ通わなくなったそうだ。留年した際の費用は両親に負担してもらい、その後大学を中退している。
——大学時代について、後悔していることはありますか?
「居酒屋時代は飲み歩いてばかりで、大学にも行かず、留年してしまいました。お金の浪費もすごかったです。真面目に学校へ行って勉強していれば、また違う人生だったのかなと思います」
酒がきっかけで友人を何人か失った経験もある。
それでも居酒屋でアルバイトをしていた頃に出会った友人とは今も付き合いがあり、オーナーにとって大切な存在になっている。
友人たちへ伝えたいことを尋ねると、
「酒癖には気をつけろ、です。それで昔、友達を何人か失いました。笑」
と答えた。大学を中退したことも、飲み歩いていたことも隠さずに自分の言葉で話してくれた。
MARCH 11
東京から見た、故郷・石巻の被害
2011年3月11日、東日本大震災が発生したとき、オーナーは東京にいた。
その日はアルバイトの予定だったが、電話もメールもつながらず、家族の安否を確認できない時間が続いた。
「兄から連絡があり、『覚悟しとけ』って言われたのを覚えています」
家族全員の無事が分かるまで約10日かかったという。
その間もテレビやニュースでは、時間がたつにつれて被害の大きさが伝えられていった。
「本当に心臓が止まりかけましたね。」
出勤できるような精神状態ではないと上司へ相談したものの、返ってきたのは「大丈夫っしょ」という言葉だった。オーナーはその時のことを今も忘れていない。

やがて家族全員の無事が確認できたが、石巻の自宅は床上浸水の被害を受けていた。同級生が亡くなったことも人づてに知ったという。
震災後、両親は小学校へ避難していたものの、家へ帰れない人たちを数日間自宅に泊めた。
その後も風呂や洗濯を必要とする人が何人も家を訪れたそうだ。
オーナーも東京で物資を集め、震災から約2か月後に現地へ向かった。
そこでまだ支援の手が届いていない場所を回り、ボランティア活動を行った。
——震災を経験し、どのようなことを考えましたか?
「上からみたいで嫌なんですけど、亡くなった方たちの分まで、しっかり、ちゃんと、恥じないように生きようと思いました」
オーナーは東日本大震災を、人生を変えた出来事であり、これまでで最もつらかった経験だったと話してくれた。
TURNING POINT
金融機関から、飲食の世界へ
大学を中退したあと、オーナーは金融機関に4〜5年勤めた。その後は飲食業界へ移り、同じく4〜5年ほど働いている。まったく異なる仕事へ進んだ背景には、大学時代の居酒屋でのアルバイトと、震災後に知った母親の行動があった。
——金融機関から飲食業へ移ったのは、なぜですか?
「居酒屋でアルバイトをしていて、いつか自分で飲食をやりたいと思っていました。それと母が震災のとき、自分も被災しているのに食事やお風呂を提供していたんです。めちゃくちゃすごいことだなと感動して、自分もみんなに喜んでもらいたいと思ったのがきっかけです」
困っている人に食事や風呂を提供する母親の姿が、オーナーの心の中に残った。
飲食を通して人に喜んでもらいたいという思いは、ここから少しずつ形になっていく。
その後、先輩から一緒に店を出そうと誘われたこともあったが、その先輩がいなくなり、共同での開業は実現しなかった。それでも自分の店を持ちたいという気持ちは消えなかった。
CHALLENGE
家族との生活を考え、自分の店を持つ
飲食店で店長を務めていた頃、社長の奥さんの友人が店を訪れた。その女性が、現在の奥さんだった。オーナーは一目惚れし、初めて会ったときから「この人だな」とピンときたという。
奥さんの優しさに惹かれ、「この人となら楽しい家庭を築ける」と感じたそうだ。早く両親に孫を見せたいという気持ちも、結婚を決めた理由の一つだった。
当時の職場について、オーナーは「ブラックすぎた」と振り返る。
この働き方を続けていたら子どもを持つことも難しく、妻にも迷惑をかけてしまう。そう考えたことが自分の店を持つ決意をさらに強くした。
開業準備では物件探しに苦労し、どのようなメニューならお客様に喜んでもらえるのか、商品づくりにも試行錯誤を重ねた。そして、テイクアウト専門店「Bambi Cafe」をオープンする。自分の店を持つことは、これまでの人生で最大の挑戦だった。
——お店をオープンした日は、どんな気持ちでしたか?
「本当に、もうやるしかないなと。うれしい気持ちと不安でいっぱいでしたね」
これまでに挫折した経験を尋ねたとき、オーナーは「挫折と感じたことがあまりない」と答えた。自宅の火災、大学の中退、震災、実現しなかった共同開業、仕事やお金の苦労を経験しても、それらを本人は「挫折」とは捉えていない。
華やかな言葉ではないが、「コツコツが勝つコツ」という座右の銘には、幼い頃から剣道を続け、現在は自分の店を営むオーナーらしさが表れている。
BAMBI CAFE
「おいしい」と感動してもらうために

Bambi Cafeで目指しているのは、価格を抑えながらも品質には妥協せず、食べた人に「おいしい」と感動してもらえる商品を作ることだ。
そんな店のタコライスが、映画『パリピ孔明 THE MOVIE』で使われることになった。
店を訪れた映画スタッフが商品を食べた際、「おいしいので使わせてほしい」と声をかけられたことが始まりだったという。
映画が公開されるとオーナーは妻と二人で作品を観に行った。劇中では、上白石萌歌さん演じる月見英子がタコライスを食べる場面に使われている。タコライスが画面に映った時間は1〜2秒ほどだったが、奥さんもとても喜んでいたそうだ。
「すてきな映画の一員になれたことをうれしく思いますし、自信にもつながりました」
一人のお客様においしいと思ってもらうことを大切にしてきた店にとって、忘れられない出来事の一つになった。
FAMILY
妻と娘に出会えたこと
人生で一番うれしかったことを尋ねると、オーナーは「妻と娘に出会えたこと」と答えた。奥さんには、毎日おいしい料理を作ってもらっていることにも感謝しているという。
——奥さんに向けて何か伝えたいことはありますか?
「出会えて結婚できたことに本当に感謝しています。いつも頼りっぱなしだけど、これからもよろしくお願いします。子どもと一緒に、たくさんの楽しい思い出を作っていきましょう!」
娘さんが生まれたときには、「この子を守っていくために全振りしよう」と心の中で誓ったそうだ。最近は、つかまり立ちをしたり、いろいろな人に手を振ったりと、日を追うごとにできることが増えていると嬉しそうに語ってくれた。
「尊さが爆発します!」と、オーナーらしい言葉を使っていたのも印象的だった。

娘さんは「ヒトメタニューモウイルス」に感染し、約2週間入院した経験もある。現在も毎日2回、吸入の薬を使っているという。どのような子に育ってほしいかを尋ねると、最初に出てきたのは健康を願う言葉だった。
「とにかく健康が一番です。人の思いが分かる、思いやりのある子に育ってほしいです」
休日は子どもと遊び、酒を飲んで眠る。店を離れた日の過ごし方を聞くと、そんな飾らない答えが返ってきた。
RESPECT
憧れであり、恩師でもある両親
憧れている人も、尊敬する人も、オーナーにとっては父と母だった。
父親は70歳を過ぎた現在も剣道を続け、昇段審査に挑戦しているという。家族のために真面目に働き、お金の大切さや稼ぐことの大変さを教えてくれた父親は、剣道の先生としてもオーナーの人生に大きな影響を与えた。
母親についてはのちにBambi Cafeを始める大きな理由にもなった。
父親と母親は、お互いを尊重しながら家庭を築いてきたという。オーナーは「こんな夫婦になれたらなと思っています」と、両親への憧れを語った。
——ご両親や、お世話になった方へ伝えたいことはありますか?
「産んでくれて育ててくれてありがとう。いつも味方でいてくれて応援してくれてありがとう。まだまだ親孝行し足りないから、長生きしてね」
家族を大切にすることや、困っている人に手を差し伸べること。両親の生き方から受け取ったものは、現在の仕事や家庭にもつながっている。
FUTURE
人生は、針時計ではなく砂時計
これから実現したいのは、店舗を増やし、もっと多くの人にBambi Cafeを知ってもらうことだ。その先には、海や湖の近くで、民宿のような小さな宿を営みたいという夢もある。
——未来の誰かへ。「人生とは何か」と聞かれたら、どう答えますか?
「人生は、針時計ではなく砂時計です。自分の砂は有限です。親や家族、友達、大切な人の砂も有限です。自分の砂がなくなる前に、そんな人たちの砂がなくなって後悔するような人生は歩まないように。心のあり方や行動は自分の意思で選んで大切に日々を過ごすことだと思います」
大学を中退したことや、酒が原因で友人を失ったことをオーナーは今も後悔している。それでも過去をきれいに言い換えることなく、家族や友人と過ごせる時間を大切にしたいと話す。
好きな言葉として挙げたのは、
「与えるものは得るもの」。
石巻で育った時間や両親の姿は、現在の家族との暮らしや、人に喜んでもらえる店をつくりたいという想いへ繋がっている。
まずは目の前にあるBambi Cafeをもっと多くの人に知ってもらうこと。
オーナーは今日もそのために店を切り盛りしている。
SHOP INFORMATION
店舗情報

タコライス専門店 Bambi Cafe
オリジナルのタコライスや、ボリュームのあるからあげなどを提供するテイクアウト専門店です。
住所 東京都稲城市東長沼516-2 Room8
営業時間 最新情報はInstagramをご確認ください
定休日 最新情報はInstagramをご確認ください
電話番号080-9540-8045
アクセス JR南武線「稲城長沼駅」から徒歩約1分
※営業時間・定休日は変更される場合があります。来店前に公式Instagramをご確認ください。



取材後記
突然伺ったにもかかわらず、Bambi Cafeのオーナーは快く取材を引き受けてくださいました。この場を借りて、改めてお礼申し上げます。
実際にお会いしてはじめに印象に残ったのは「笑顔」です。
明るく気さくで、突然訪ねてきた私にもとてもフレンドリーに接してくださいました。
店内は綺麗に整えられており決して広くはない店舗ですが、デリバリーとテイクアウトの注文を一人で切り盛りしています。
取材中にはUber Eats の配達パートナーの方が商品を受け取りに来ることが何度もありましたが、そのたびに丁寧に対応していた姿もよく覚えています。限られたスペースで一つひとつの注文に向き合う様子を見ていると、お店を大切にしていることが自然と伝わってきました。
これまでに大きな出来事をいくつも経験してきたことや、自分の失敗についても隠すことなく話してくれましたが、必要以上に重く語ることはなく、どこか明るく前を向いている。
最初に感じた親しみやすさはこうした人柄から生まれているのかもしれません。
なかでも心に残ったのは、震災後のお母様の話。
自分も被災しているなかで、人のために動いていたこと。その姿を知り、「自分も人に喜んでもらいたい」と思ったことが、Bambi Cafeを始める理由の一つになったそうです。
話を聞くなかで強く伝わってきたのは、家族のためにこの店を何としても成功させたいという想いでした。
オーナーの優しさは、お店を始めてから身についたものではないのでしょう。
ご両親から受け取ったものが、奥さんや娘さんへ、お店を訪れる人へと自然につながっているように感じられたインタビューとなりました。
このたびBambi Cafe様には、LIFE MEETSの活動を応援する協賛パートナーになっていただきました。お近くにお越しの際はぜひ一度オーナーが作るタコライスを味わってみてください。

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